「ELECOM M-ARMA50」レビュー。小型のエルゴノミクスマウスを好むユーザーの新たな選択肢となり得るか
本稿では、ELECOM(エレコム)のFPS向けゲーミングデバイスブランド ARMA のゲーミングマウス「ELECOM M-ARMA50」のレビューをお届けします。
製品仕様と外観
日本の老舗パソコン周辺機器メーカー ELECOM(エレコム) が、PC用FPSゲーム向けデバイスのブランド ARMA を立ち上げ、第一弾として計14製品が発表されました。そのラインナップの中で筆者の目に留まったのが今回レビューする「ELECOM M-ARMA50」です。
プレスリリースに記載されていた価格は約12,000円とかなり強気に思えましたが、執筆時点での実売価格は6,000円台とこなれており、思っていたよりも手は出しやすいです。
日本人の標準的な手のサイズをベースに、骨格形状に合わせたエルゴノミクスデザインとなっているというM-ARMA50は、全長わずか106.6mmでありながら高さは43.6mmと非常に厚いのが特徴。これはかなり面白い形状なのではないかと思い購入しました。早速見ていきます。
M-ARMA50は、計8ボタンを備える左右非対称型ゲーミングマウスです。サイズは幅72.9 全長106.6 高さ43.6mmと小型ながら背が高く、左サイド手前に大きく広がるスカートがあるユニークな形状。
表面コーティングは、本体の白い部分がマットで、手の跡が残りづらいうえに防滑性能も高いです。一方で、左サイドの黒い部分はTPE素材のラバーグリップで、手汗をかいた状態ではやや滑りやすいものの、握り込むと適度なグリップ感があります。
四方から見るとかなり独特なフォルムです。M-ARMA50は小型のエルゴノミクス形状ではあるものの、日本人の平均的な手のサイズをカバーできるよう傾斜が上手く作られています。
本体重量は公称値84g(ケーブルを除く)、ケーブルを浮かせた状態での実測値が94gでした。
この数値の差異はケーブルの抵抗によるもの。M-ARMA50には耐久性を重視した太めの編組ケーブルが備わっているので、しっかりとマウスバンジーで浮かせて調節する必要がありそうです。
スペック
ELECOM M-ARMA50 製品仕様 | |
形状 | 左右非対称型 |
表面素材 | マット (左サイドのみラバーグリップ) |
サイズ | 幅72.9 全長106.6 高さ43.6mm |
重量 | 84g (ケーブル除く) |
ボタン数 | 8つ |
センサー | PixArt PAW3335DB |
DPI | 100~16,000DPI (100刻み) |
ポーリングレート | 125/250/500/1000Hz |
LoD | 1.8mm~ (実測値) |
スイッチ | オムロン製 2,000万回耐久 |
ケーブル | 編組ケーブル |
ソフトウェア | 対応 |
価格 | 6,636円 (Amazon.co.jp、本稿執筆時点) |
ギャラリー
パフォーマンス
持ち方の相性・操作感
一目見たときに左サイドの方に目がいきがちですが、秀逸なのは右サイドの突起。これが薬指のガイドとなり、意外としっかり握り込める形状となっています。
小指は余った部分に配置することになりますが、スペースには相当な余裕があるので、手のサイズが平均を上回る方でない限りマウスパッドと接地してしまう心配は無さそうです。
左側は一見すると広がっているように見えますが、サイドボタンの奥側に窪みがあり、親指を引っかけられます。黒い部分はラバーグリップとなっており、しっかりと握り込むほど滑りづらいです。
本体後部の幅が広く取られており、親指の付け根周辺を支えてくれるので、被せ持ち・掴み持ちでの手のひらへのグリップ感は得やすいでしょう。
これらを踏まえたうえで、一般的な持ち方3種類との相性をチェック。筆者の手の大きさは幅9.5cm 長さ18.5cmで、日本人男性の平均サイズとなります。指の太さや長さ、それぞれの持ち方での細かな癖など、さまざまな要因によって感じ方が異なる可能性があることを前置きしておきます。
かぶせ持ち
全長が106.6mmと短めなM-ARMA50ですが、かぶせ持ちで全ての指を違和感なくフィットさせられる形状となっています。平均的な手のサイズの筆者の場合、メインスイッチの先端から指が飛び出しますが、窮屈さは感じません。
先に薬指と小指を右サイドの起伏に引っ掛けた後、手を覆い被せるとジャストフィットします。マウスに対して手をやや斜めに配置するのがポイント。手が小さめの方ならばなお合いそうです。
つかみ持ち
つかみ持ちは相性抜群。サイドの3本指が全てマウスの形状に沿って配置できるうえ、本体後部ギリギリまで高さが残っており手のひらへのフィット感も有り。グリップ感が強く得られます。
つまみ持ち
つまみ持ちは癖があるのでオススメしません。そもそもサイドの3本指にやや力を入れないと、しっかりとマウスが固定されません。また右サイドの形状が影響し、薬指と小指を少し離して配置することになります。
結論として、かぶせ持ちとつかみ持ちは相性が良いです。つかみ持ちでのグリップ感は申し分無いですし、かぶせ持ちは手が18cm以下の方だとフィット感がさらに増しそうです。ただしユニークな形状となっているぶん、サイドのみで固定するつまみ持ちにはめっぽう弱いです。
ボタン配置・クリック感
M-ARMA50のメインスイッチは、クリック耐久性2,000万回のオムロン製スイッチ。よく標準で採用されるスイッチの中では評価が高いものですね。
軽いクリック感でストロークは短め。跳ね返りの強さも十分で、かなり連打しやすいです。スイッチ押下ごとの違和感も全くなく、これは万人受けするのではないかと思います。
左右クリックを比較すると、右クリックの方が跳ね返りの強さを明確に感じられます。FPSでは右クリックは主にADS移行に用いられますが、押したり離したりを瞬時に行いやすいです。
サイドボタンは本体の窪みの中から飛び出している特殊なタイプ。ちょうど親指を配置するポイントに窪みがあり、指をそのまま上にスライドするとボタンに辿り着きます。しかし瞬時に押そうとすると、窪みに親指が擦れてAIMがズレる可能性有り。
やや固めでストロークは短く、カチカチと歯切れの良いクリック感です。配置が特殊なので誤って押してしまう心配は無さそうです。
親指側の手前に配置された小さめのボタンは、やや固めでタイトな押し心地です。
かぶせ持ちした際には親指の第二関節で、つかみ持ちでは若干親指を手前側に引き込むことで押し込めます。普通にマウスを握り込んでいる分には邪魔にならない配置なので、最も多用するキーを割り当てても良いかもしれません。
ホイールはノッチ感が弱めで、軽い力でコロコロと回ります。何度回したかが把握しづらく、ほんの少しだけ左右にガタつきます。一方でホイールクリックは軽い力で押しやすく、押下時の違和感もありません。
センサー挙動・リフトオフディスタンス
M-ARMA50の搭載センサーはPixArt PAW3335DBです。聞き慣れない型番ですね。ソフトウェアから100~16,000DPIを100刻みでの調整が可能で、最高速度400IPS、アクセラレーション40G対応と、カタログスペック上は3389に迫るもの。
PAW3335DBについてPixArt社のデータシートによると、PixArt PMW3389などの主流センサーと比較して消費電力が圧倒的に少なく、有線ゲーミングマウスだけでなくトラックボールマウスや無線ゲーミングマウスに用いることも想定したセンサーとのこと。エレコムが扱いやすそうなものを採用してきたという解釈で良いでしょう。
例のごとく、Mouse Testerでセンサーの正確性を検証。DPIはそれぞれ400, 800, 1600, 3200で、ポーリングレートは500/1000Hz、マウスパッド「PureTrak Talent」上でテストを実施しました。ツールの性質上、環境によって結果が変動する可能性があることを前置きしておきます。
- MouseTesterの見方について
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基本的には、波形に点が綺麗に沿っていれば、マウスのセンサーが正確なトラッキングを行えている、という認識で構いません。マウスを動かす速度が速いほど、波形が縦方向に長く生成されます。つまり、波形の折り返し地点は、マウスが最高速度に達したことを表します。
- 横軸 Time(ms):経過時間を表す、1000分の1秒
- 縦軸 xCounts:マウスの左右への移動量。右に動かすと波形が上方向に、左に動かすと波形が下方向に生成される。マウスを動かす速度が速くなるほど、縦方向に大きな波形が生成される。
例えば、「中間地点の波形に点が綺麗に沿っているが、折り返し地点でブレが生じている」という場合、基本的には正確にトラッキングできているが、マウスを動かす速度が速いと反応がブレる、といった見方となります。
しかし、折り返し地点のブレが毎回同じような傾向だった場合、「マウスを早く動かすとカーソルが毎回その動きをする」ということですので、カーソルの動きは安定しているということになります。そのような場合、マウスを早く動かすとカーソルの動きに癖が出るものの正常、といった認識で構いません。
500Hz
1000Hz
ポーリングレート1000Hz時に波形が乱れる現象が発生しています。500Hz時も正確であるとは言いづらいですが、こちらの方が比較的安定しています。実際のカーソル挙動は悪くないですが、センサーの調整に関しては不完全という印象を受けます。
2019/10/23追記:見慣れないセンサーということで再度検証を重ねた結果、16,000DPI設定時にはポーリングレート500/1000Hzともに安定するという結果に。高DPIで安定するというセンサー側の傾向なのか、はたまたメーカー側の調整によるものかは不明。追ってお伝えします。
マウスを浮かせてセンサーの反応が途絶えるまでの距離 リフトオフディスタンス も検証。0.1mmのプレートを1枚づつ重ねてマウスを動かすという工程を繰り返し、センサーが反応しなくなる高さを測ります。使用するマウスパッドによって数値が変動する可能性があります。
マウスパッド「PureTrak Tallent」上で計測した結果、M-ARMA50のリフトオフディスタンスは1.9mm前後でした。こちらも比較的長めですね。ちなみにプラスチック製マウスパッド2種(Phobos-M、GP3)では1.6mm前後となりました。
PixArt PAW3335DBの仕様書を読む限り、内部的にはLoDを1mm/2mmでスイッチさせることが可能な仕組みなよう(マウス本体底面のスイッチ機構によって変動するので 数値はこの限りではない)。ソフトウェアには機能が実装されていないので、後のアップデートで追加されれば万々歳なのですが。
マウスソール
マウスソールは細長い形状のものが4枚で、四隅を囲うように配置されています。高級フッ素樹脂素材が使用されているとのこと。滑り性能がそれなりに高く、止めに関してはマウスパッドのサーフェイスに影響されやすいと感じます。
なお、標準ソールはかなり薄く、本体からほとんど飛び出していないので、ソール交換によってLoDの調整が容易におこなえそうです。エアーパッドソールのような円形ソールであれば自由に配置できそうです。
ケーブル
耐久性を重視した編組ケーブルで、かなり硬くて取り回しづらいです。操作しているとケーブルによる抵抗感や重たさがダイレクトに伝わります。
太さは実測値3.18mmで、大抵のマウスバンジーに適合する一般的な太さです。これを快適に扱うとなると、ケーブルがマウスパッドに触れないようしっかり浮かせるなど、工夫して留める必要があります。
ソフトウェア
M-ARMA50はソフトウェア「ARMA FPS GAMING DEVICE V1.0」に対応しています。以下のURLよりダウンロード可能です(本稿執筆時点でのバージョンを記載)。
ELECOM ARMA FPS GAMING DEVICE V1.0:https://www.elecom.co.jp/support/peripheral/arma_fps/
設定項目は、100~16,000のDPI調整(100刻み)、各ボタンへのキー・マクロ割り当て、LEDライティング設定(レッド単色)、ポーリングレート切り替え、マウス加速のON/OFFなど。最低限の項目は揃っていますし、UIもシンプルで使いやすいと思います。
本体には設定プロファイルを保存しておくオンボードメモリが内蔵されているので、一度ソフトウェアで設定を行えば他のハードウェアに接続してもそのまま使用可能です。
結論とターゲット
まず印象に残ったのは、かぶせ持ちとつかみ持ちで不思議とフィットするユニークな形状。現状M-ARMA50に似たマウスはパッと挙げられません。小型で手に馴染むゲーミングマウスを探しているかぶせ持ち・つかみ持ちユーザーにとって、唯一無二の選択肢になり得るのではないでしょうか。
メインスイッチのクリック感も非常に良いうえに、FPSにおける左右クリックの役割に合うようクリック感を分かりやすく変化させているあたり、”FPSでの使用を想定して設計されたゲーミングマウス”というキャッチコピーに疑念は一切抱きません。
ただしゲーミングマウスの完成度としてはやや不十分であることも否めません。センサーの安定性、LoDの長さは気になるところですし、ケーブルは相当に取り回しづらいです。ファームウェア・ソフトウェアに関しては更新が待たれるところでしょうか。
日本のパソコン周辺機器メーカー エレコムのゲーミングデバイス第一弾、結論としては”随所に光るところがあるが未完成”といったところ。エレコム公式Twitterが直々にユーザーに反応するなど、フィードバックを積極的に受け取る姿勢を見せていますし、個人的にはARMAの今後の展開が楽しみです。
以上、ELECOM(エレコム)のFPS向けゲーミングデバイスブランド ARMA のゲーミングマウス「ELECOM M-ARMA50」のレビューでした。