ZENAIM KEYBOARD レビュー
この記事ではZENAIMのゲーミングキーボード ZENAIM KEYBOARD をレビューします。
レビュー用サンプル提供: ZENAIM
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この製品について
ZENAIM KEYBOARDは、ZETA DIVISIONのプロ選手監修のもと開発され、発表時には多くのユーザーの期待を背負っていたであろうロープロファイルキーボードです。
しかし、2023年5月に発売された初期品にスタビライザーの不具合が見つかり、製品を自主回収、無償での交換対応が実施されました。8月には交換品が発送され、ほぼ同時期に販売を再開するも、交換品が手元に届いたユーザーから一部キーキャップの色味が異なるとの報告があり、再び製品を自主回収。次回の販売スケジュールも延期されていました。
そして今月11月、ようやく改良後の製品が完成し、今までの購入者への交換対応も終え、販売が再開される運びとなりました。
この間にハードウェアの改良だけでなくソフトウェアアップデートも実施されており、アクチュエーションポイント0.1mm~、Rapid Trigger0.05mm~で調整可能となりました。
また、0.1mmでのオンや0.05mmでのオフを実装する過程で、周囲の温度によって磁力の強さが変動してしまい、キーの押し込み量の検知にズレが生じてしまった事実を明かしました。それに伴い、新たに温度を検出するパーツをキーボード内部に組み込み、そのズレを自動的に補正するようプログラム。常に設定した数値通りにキーのオンオフ判定が行われる 温度補正機能 を実装しました。他の磁気キーボードよりも高い動作の安定性が期待できます。
販売価格は¥48,180(税込)と、ゲーミングキーボードとしては最も高価な部類です。
基本仕様
トップフレームには上下にRがつけられたアルミニウム合金フレームが使用されています。ゲーミングキーボードらしくないデザインで、とても格好良いと思います。
ボトムシェルはプラスチック製です。真ん中にZENAIMのロゴが配置されています。
段階式の角度調整スタンドが取り付けられていて、タイピング角度を0°、4°、8°の3段階に調整できます。
側面はへこませることでキーボード本体を持ち上げやすいような設計に。
USB Type-Cケーブルは背面の右側に差し込みます。キーボードをマウスパッド上に載せていたり、キーボードまで載せられる横長のマウスパッドを使用している場合、マウスを左側に振ったときにケーブルとぶつかってしまう可能性があります。
自分で用意したコイルケーブルなどで見た目をカスタマイズしたいという人にとっては、確かに左側のほうが自然かもしれません。個人的にはどちらでも構いません。
日本語配列のテンキーレスキーボードとしてはキーの配置が特長的で、最も影響が大きそうなのは1列目と2列目に本来あるはずの隙間が無いことです。ゲーム操作中に数字キーを押そうとしたときに上の列のキーを誤って入力するリスクが増えるかも。最下段のキーの並びも一般的なJISキーボードとは少し異なりますが、スペースバーの幅は一般的なのでゲーム操作にはあまり影響しなさそうです。
キーキャップ
キーキャップの表面にはマット塗装が施されています。さらっとした手触りで、他のキーに指を運ぶときに引っ掛かりません。汗や皮脂による汚れが目立ちづらく、遠慮なく使うことができます。
Kailhのロープロファイルキーキャップと互換性があるので、種類は限られるもののキーキャップ交換自体は可能です。
キースイッチ
キースイッチは ZENAIM KEY SWITCH。キーの押下状況をホールエフェクトセンサーで検知する、最近流行りの磁気キースイッチの一種です。Wootingが採用するGateronやDrunkDeerが採用するRAESHAのように既存メーカーが開発したものとは異なり、ZENAIMがイチから設計・開発したものとなります。
キースイッチ名称 | 特性 | 押下圧 | 作動範囲 | ストローク |
ZENAIM KEY SWITCH | Linear | 50g | 0.1-1.9mm (0.05mm単位) |
1.9mm |
最大の特長はキーストロークがわずか1.9mmの超ショートストロークという点です。一般的なキーボードではキーを4.0mm前後押し込むことができますが、ZENAIMではその約半分。一時期人気を博したロープロファイルキーボードLogicool G913でも2.7mmなので、1.9mmという距離がどれほど短いかが分かります。
キーの重たさについては標準的と言っていいと思います。ゲーミングキーボードに採用されるリニアスイッチは押下圧45~50gのものが主流で、ZENAIM KEY SWITCHの押下圧はその範囲に収まる50gです。押下圧に関してはその人の好み次第で、どちらの方が優れているというような優劣はつけ難いです。
もう一つの特長が、キーのガタつきが少なくなるよう設計されていることです。一般的なキースイッチと比べてステムの揺れが抑えられており、キーに指を置いているとき、押し込んでいる最中にもほとんどガタつきません。
これらのキースイッチは背の高さが全く違うので比較対象として適切かは分かりませんが、Wooting 60 HEやArbiter Studio Polar 65で採用されているようなキースイッチよりも揺れが少なく、DrunkDeerやELECOMで採用されているボックスステム仕様のRAESHAキースイッチと同等くらいです。
キースイッチを色々な角度から。
キースイッチの下には、磁気を信号に変換するホールセンサーが搭載されています。
打鍵感
YouTubeにRapid Trigger対応キーボードの打鍵音を比較する動画を投稿しました。
キーストロークが1.9mmと非常に短いこともあり、既存のゲーミングキーボードとはかけ離れた打鍵感になっています。例えるなら、ノートパソコンに搭載されたキーボードの押し心地をちょっと上品にした感じ。
一般的なメカニカルキーボードはキーストロークが4.0mm前後あるのに対し、ZENAIM KEYBOARDは約半分の1.9mmしか押し込めません。ちょっとだけ押した感覚でもすぐに底打ちになるので、いつもの感覚でタイピングするとトッププレートにキーを叩きつけるような感じになります。
キーを底打ちしたときのカタカタという音はそれなりに大きいですが、初期ロットで目立っていた反響音は抑えられています。ばね鳴りやパーツ同士の接触音も目立たなくなり、タイピングを通して不快な音はあまり鳴らなくなった印象です。
タイピングの心地よさや上品な打鍵音を求めている人にとっては満足いかないかもしれませんが、そういった部分にこだわりがなく、ゲームプレイの性能に長けたゲーミングキーボードとして手に取る人にとっては不快じゃないレベルに仕上がっていると思います。
Rapid Trigger/アクチュエーションポイント
ZENAIM KEYBOARD は独自に提供されているソフトウェア ZENAIM SOFTWARE から詳細設定が可能で、MOTION HACK (いわゆるRapid Trigger) やアクチュエーションポイントの調整が行えます。
アクチュエーションポイントは0.1~1.8mmの間を0.05mm単位で調整できます。
MOTION HACKというモードを有効化すると、いわゆるRapid Triggerを利用できます。
Rapid Triggerとは、キーをどこまで押し込んでいても、設定した数値(mm)だけキーを戻すと入力がオフになり、再び設定した数値(mm)だけキーを押すと入力がオンになる機能です。
例えばRapid Triggerを0.05mmに設定すると、キーを押した深さに関わらず、0.05mmでもキーが戻ると入力がオフになり、再び0.05mmでも押されると入力がオンになります。
キーの押し込み状況にかかわらず、離した瞬間にオフ、押した瞬間にオンになるので、VALORANTでキーから指を離してストッピングするのが速くなります。
一般的なキースイッチでは、キーのオンオフが判定される深さが決まっています。例えばCherry MX 銀軸なら、キーを3.4mmも押し込めるのに、オンオフを判定するのは1.2mmの深さです。1.2mmの深さまで押し込んだらオンになって、再び1.2mmの深さまで戻した時点でオフになります。
つまり、キーを一番底まで押した状態から入力がオフになるまで2.2mmもの距離を戻さないといけません。ZENAIM KEYBOARDなら、これをわずか0.05mmでオフにできます。ちなみにRazer Huntsman V3 Proが0.1mm、Wooting 60 HEが0.15mmです。
各社が公表している数値が正確なのかはさておき、VALORANTの射撃場でWASDを小刻みに押したり離したりするテストを行うと、ごくわずかに違いを体感できます。ZENAIM Keyboardが最もきびきびと反応し、オンオフのタイミングに一貫性があります。
しかし、コンペティティブやチームデスマッチといった実践的なシーンでは、先ほどのテストのようにキーを小刻みに連打することはなく、WASDを底打ちした状態から離すという大まかなキー操作が中心になるので、こういった細かな差は体感しづらくなります。
経験上、Rapid Triggerは一定以上の感度があればインゲームでの差はほぼ体感できないように感じます。「違いを体感できるかできないか」が重要だと考える人にとっては、ZENAIM KEYBOARDも、Razer Huntsman V3 Proも、Wooting 60 HEもほぼ同じものです。
しかし、人間の感覚では体感できないような細かな差を突き詰めたい場合、ZENAIM KEYBOARDは最も反応性が高いように感じるので、手を出す価値があるのではないかと思います。
所感
ただ、ZENAIM KEYBOARDは磁気キーボードの中では最も動作の安定性に優れていると感じました。Rapid Trigger有効時のキーのオンオフのタイミングに一貫性があり、VALORANTでのストッピングミスも少ないです。
筆者はWooting 60 HEを約2年間ほどメインで使用しており、新しいRapid Triggerキーボードがリリースされたら、その都度テストのために使用していました。その中で、磁気式キースイッチを搭載したRapid Triggerキーボードの全ては総テスト期間のうちに何度か動作不良を引き起こしました。
そのほとんどが気にならないものですが、ときにRapid Triggerの感度が不安定になったり、勝手にキーが入力されるといった問題が発生することもあります。これらがゲームの重要なシーンで発生すると勝敗にも影響が生じることがあります。
唯一、光学式スイッチで最短0.1ミリのRapid Triggerを実現したRazer Huntsman V3 Proは安定して動作し続けていました。これらの経験から、そもそもWootingをはじめとする磁気キーボード自体に動作が不安定になる原因があるのかとすら思っていたところでした。しかし、ZENAIM KEYBOARDの動作は安定しているので、この仮定は成り立たないと今のところは考えています。
ZENAIM KEYBOARDは温度補正機能という機能を備えています。磁気の強さは温度の変化に対して変動するため、以下のような現象が発生するそうです。
- 磁石が低温になるとコンマ数mmストロークが不足する
- 磁石が高温になるとコンマ数mmストロークが過剰になる
ZENAIM曰く、温度補正機能によって上記のようなストローク量の判定の誤差を補正しているとのことで、新たに温度検出部品を搭載してこの機能を実装したそうです。この機能がどのような影響を与えているかはユーザー側で検証のしようがありませんが、ZENAIM KEYBOARDのキーのオンオフに一貫性があるのはこの機能のおかげである可能性は高いです。
操作感
もともとロープロファイルキーボードを好んで使っていた人にとって使いやすいことは間違いないのですが、一般的なキーボードからロープロファイルキーボードに乗り換え、その操作感に慣れるにはある程度の期間が必要となります。その期間は人によって異なりますが、筆者の場合はゲームの操作ミスが落ち着くまでに約3時間、違和感が無くなるまでには約2日間ほど要しました。
一般的なキーボードはキーを深く押し込める分、無意識にキーを上下してしまうことがごく稀にありました。Rapid Triggerキーボードはキーをわずか0.1mmや0.05mm上下に動かすだけでオンオフ判定が行われるので、そのわずかなキーの動きが操作ミスに繋がることがあります。
ZENAIM KEYBOARDは圧倒的にキーストロークが短く、キーのガタつきも少ないので、意図しないキーの上下による操作ミスが体感上は起きづらいです。オンオフの判定が正しく行われていることも影響しているかもしれませんが、ストッピングのミスが少なくなり、操作に確実性が増した感じがします。
結論とターゲット
ZENAIM KEYBOARDについて詳しく見てきました。アクチュエーションポイントは最短0.1mm、Rapid Triggerは最短0.05mmに設定できます。これまでテストした磁気キーボードの中で最もきびきびと反応し、キーのオンオフのタイミングにも一貫性があるように感じます。
筆者の経験上、磁気キーボードはテスト期間のうちに必ず何らかの動作不良を起こしていましたが、ZENAIM KEYBOARDでは発生しません。本体温度による磁気の強さの変動や、それによってストローク量の検知にズレが出ることなども明かしたうえで、温度補正機能の実装をやり遂げたことからも、動作の安定性の面で最も信頼できる磁気キーボードと評価していいのではないかと考えています。
ハイエンドクラスに近づけば近づくほど、競合製品との性能差が縮まって違いが分かりづらくなるうえ、価格が跳ね上がります。当然、費用対効果も薄くなります。ZENAIM KEYBOARDは人間の感覚では体感できない性能差まで突き詰めたゲーミングキーボードで、主に動作の安定性やRapid Triggerの精度に焦点が当てられています。
体感できる違いを重視する人にとっては競合製品とほぼ同じように映るかもしれませんし、費用対効果を求める人にとっては悪く映るかもしれません。しかし、ハードウェア改良・ソフトウェアアップデートを経てZENAIMは非常に完成度の高いゲーミングキーボードとなりました。現状最も性能が高く、予算を多く出せるハイエンド志向の人にとって優れた選択肢となります。
以上、ZENAIM KEYBOARDのレビューでした。
・結論としては、未成熟な製品のため評価はできないということでよいのでしょうか。
・レビューを通して感じたことは、センサーの高品質さを売りに出しても、ほぼユーザーはその差を実感することはできない(そこがわかるユーザーは一般人にはほぼいない=一部のプロゲーマーとHW好きのみ対象)ような気がしました。
・製品自体の品質を上げて欲しかったです。キートップはまだグラグラしているように見えます。打鍵音もおもちゃに近いです。トヨタに下しているのであればレクサス製品の要求事項を満たせると思うのですが、官能性評価はどうしているのか疑問です。
・SW/HWともに未成熟な状態でこの金額で発売することは、期待していた人々にとって裏切られたと思います。訴求できない高コストセンサーはやめて、汎用に切り替え、半額くらいで出した方がましかと。
ZENAIMはスタビライザーの改善に取り組んでおり、8月頃まで販売を延期しています。また、機能を追加するファームウェアアップデートが同時期に予定されています。
現状で評価することも可能でしたが、FW/HWともに現行バージョンは今後入手できなくなるため控えました。改善・アップデート後、再び市場に出回るタイミングで再度レビューを行う予定です。
ハードウェアの改良とファームウェアのアップデートが実施され、実機を入手することができたので、内容を更新いたしました。
こんにちは
初めてのラピトリキーボードとしてzenaim購入したんですが、APとRPそれぞれ設定のおすすめありますでしょうか?