磁気式キースイッチについて解説
ゲーミングキーボードのRapid Trigger機能やアクチュエーションポイント調整を可能にしたことで注目されている「磁気式キースイッチ」について詳しく解説します。
あらゆるメーカーから出ている磁気式キースイッチの仕様やスペックの比較もしています。
磁気式キースイッチとは
可動部に磁石が付いていて、ホールセンサーと組み合わせることで、磁界の変化によってキー入力を検知できるキースイッチです。キーの押し込み量まで検知できるので、アクチュエーションポイントの調整やRapid Triggerといった機能を実装できるのが強みです。
これまでのゲーミングキーボードの歴史において、磁気式キースイッチはゲームチェンジャーともいえる存在です。
これまではゲーム用と謳っていないメカニカルキーボードとゲーミングキーボードに分かりやすい性能差が無く、ゲームで有利に立てるような機能も搭載されていませんでした。
磁気式キースイッチの登場により、アクチュエーションポイントの調整やRapid Triggerといった革新的な機能が実装可能となったことで、ゲーミングキーボードが他のキーボードと比べて明確にゲームで有利に立てるものへと進歩しました。
メカニカルキーボードは、搭載されているスイッチの種類によって作動点が決まっていたので、「赤軸」や「銀軸」など、自分に合った感度のスイッチを片っ端から試していく必要がありました。
良し悪しを語るときも、主に「軸色」の種類による作動点の違いが争点になっていました。
磁気式キースイッチを搭載したキーボードなら、キー入力がオンオフされる深さを自由にカスタマイズできるので、もうキー感度を変えるために色々なキースイッチを試す必要はありません。
磁気式キースイッチの仕組み
磁気式キースイッチはメカニカルキースイッチと似たような見た目をしていますが、物理的な接点を持ちません。ステムという部品の最も底の部分に磁石がついているのみです。
キーを押すときにステムが上下するので、当然ステムの底に付いている磁石も一緒に動きます。
磁気キーボードには、磁界を電気信号に変えるホールセンサーというものが取り付けられています。キーを押したときの磁石の上下によって発生する磁界の変化をこれで読み取り、キーの押し込み量を検知しながら入力のオンオフが制御できるようプログラムされています。
このホールセンサーとセットでなければ磁気式スイッチは動作しません。もしホットスワップ対応のキーボードに磁気式スイッチを取り付けることができたとしても、磁気式キースイッチ未対応ならキーの入力すら行えません。
磁気式キースイッチの良いところ
言わずもがな、キーの押し込み量を検知できるのは大きなメリットです。
アクチュエーションポイント調整やRapid Triggerといったゲーマーに人気の機能は、キーの押し込み量を検知できる磁気式キースイッチによって成り立っています。
メカニカルキースイッチはその種類によって作動点が決まっていて、アクチュエーションポイント調整やRapid Triggerを実装することは理論上不可能です。
光学式キースイッチでは成功例があります(Razer Huntsman V3 Proシリーズ)が、スイッチ自体をそれ専用に設計する必要があります。光学式よりも磁気式キースイッチでの実装難易度のほうが低いことを考えると、おそらく今後手を出すメーカーは少ないでしょう。
磁気式キースイッチのデメリット
温度・湿度の影響を受けてしまうのは弱みです。例えば、部屋があまりに寒いと磁気が強くなってキーの感度が上がり、キーを押してないのに入力されてしまうなどの不具合が起こることも。
そういった外的要因によるキー入力検知の誤動作を防止するための機能が備わっているキーボードも存在しています。ZENAIM KEYBOARDやMeletrix Boog75がそれに該当します。
キーボード本体の周囲に磁力の強いものを置いていると影響を受ける可能性があります。
いまから新たに買うなら磁気キーボード
ゲーム用キーボードのスイッチ
どれ使ってますか?— ミオニ (@mionigg) January 17, 2024
いまから新たにゲーム用キーボードを買おうと考えている場合、特定の機能に対する強いこだわりがない限りは、カスタマイズ性に優れている磁気式キースイッチ搭載モデルがお勧めです。
日頃からゲーミングデバイスについて調べている情報感度が高い人は、次々にRapid Triggerやアクチュエーションポイント調整ができる磁気式キースイッチを搭載したキーボードへ乗り換えています。
この記事では、15種類以上のRapid Trigger対応ゲーミングキーボードを試してきた筆者が、おすすめできる機種を厳選して紹介しています。
磁気式キースイッチの仕様・スペック
磁気式キースイッチ自体に接点はなく、キーボード本体に搭載された磁気を信号に変えるセンサーによって入力を検知する仕組みなので、作動点(アクチュエーションポイント)はキーボード本体のファームウェアに依存します。よって作動点の欄は空欄にしてあります。
打鍵感や打鍵音については、キースイッチだけでなくキーボード本体の構造も大きな影響を与えるので、あえてここでは言及しないようにしています。
Wooting 磁気式キースイッチ
Lekker L60
お馴染みWooting 60HEに標準で搭載されているキースイッチです。Gateron KS-20をベースにカスタムされたスイッチなので、KS-20やそれに対応するキーボードと互換性があります。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 40cN/60cN |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | – | 備考 | – |
Lekker L45
Wootingが別売りのオプションとしている販売しているスイッチ(UwUには標準で搭載)。60HEに標準で搭載されているキースイッチよりもスプリングが軽めに調整されています。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 30cN/45cN |
---|---|---|---|
作動点 | 0.1~4.0mm | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | – | 備考 | – |
GATERON 磁気式キースイッチ
GATERONは特定のメーカー向けにスイッチをカスタムして卸してたりするので、現時点でかなりの種類が存在している。正直なところあまり整理できていないので、もしも重複していたら申し訳ない。
GATERON KS-20 Orange
Wooting LekkerやSteelSeries OmniPointはこのシリーズをベースにしている。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 38gf/50gf |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.1mm |
動作寿命 | – | 備考 | ファクトリールブ |
GATERON KS-20 White
Wooting LekkerやSteelSeries OmniPointはこのシリーズをベースにしている。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 30gf/50gf |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.1mm |
動作寿命 | – | 備考 | ファクトリールブ |
GATERON KS-37 White
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 30g/50g |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | – | 備考 | ファクトリールブ |
GATERON KS-37B Red
デュアルレール構造によってステムの揺れが軽減されているが、そこまで詰まったような感じでもない。Meletrix Boog75に搭載されているKS37-Bはステムとハウジングが赤かった。情報を追っている感じではおそらく白いKS-37Bも存在する?
YukiAim Polar 65, Arbiter Studio Polar 65, VXE ATK68, Higround Performance Base 65 Keyboard と互換性あり。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 30gf/50gf |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | – | 備考 | ファクトリールブ |
GATERON Jade
麻雀からインスピレーションを得たサウンドを特長とするスイッチ。
SteelSeries, Wooting, Corsair, Rakka, 和沐, Varmilo, NuPhy, MelGeekなどの磁気キーボードと互換性があるとのこと。要するにGATERON KS-20系列か。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | Start 30gf |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 3.5mm |
動作寿命 | 1億回 | 備考 | ファクトリールブ |
Arbiter Studio / YukiAim 磁気式キースイッチ
Gateron YukiAim Edition
名前にもある通りGateronのカスタム品で、おそらくKS-37をベースとしたスイッチ。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | Start 36g / End 60g |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | 1億回 | 備考 | ファクトリールブ |
Fuji Magnetic Switch
これもおそらくGateron KS-37をベースにしたスイッチ。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | Start 36g / End 60g |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | 1億回 | 備考 | ファクトリールブ |
GEONWORKS 磁気式キースイッチ
Raptor HE
Wooting Lekkerスイッチのカスタマイズのために用いられることが多い印象。このRaptor HEスイッチのハウジングと、Wooting Lekkerスイッチのステムを組み合わせると、部品同士のアソビがほぼなくなってステムの揺れが抑えられるらしい。
Wooting 60HE, Corsair K70 MAX, SteelSeries Apex Proと互換性あり
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 42g/52g |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | – | 備考 | ファクトリールブ |
ZENAIM 磁気式キースイッチ
ZENAIM KEYSWITCH
執筆時点では唯一の磁気式ロープロファイルキースイッチ。新規参入でいきなりキースイッチを自社開発する東海理化さんは凄い。OMG 彼…気合い入りすぎだよ
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 50g |
---|---|---|---|
作動点 | 0.1~1.8mm | キーストローク | 1.9mm |
動作寿命 | 1億回以上 | 備考 | 薄型設計 |
SteelSeries 磁気式キースイッチ
SteelSeries Apex ProシリーズはRGBライティングを実装するために基板とスイッチがはんだ付けされているので、他の磁気式キーボードのように気軽にスイッチを取り外せない。よってOmniPointの写真は無い。
OmniPoint 2.0
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 45g |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | 1億回 | 備考 | – |
OmniPoint
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 45g |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 3.6mm |
動作寿命 | 1億回 | 備考 | – |
RAESHA 磁気式キースイッチ
RAESHA White
ボックスステムによりキートップの安定性が確保されたスイッチ。押し始めは軽いが底に近づくにつれてかなり重たくなるのが特長。ELECOM VK600AやDrunkDeer A75/G65/G60に搭載されている。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 30gf/60gf |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | – | 備考 | – |
Kaihua (Kailh) 磁気式キースイッチ
Kailh Magnetic Switch
メカニカルキースイッチで名が知られているKailhの、おそらく初となる磁気式キースイッチ。ハウジング,ステムの全てに自己潤滑性に優れるPOMが使用されているのが特長です。
サンプルとして送られてきたKeydous NJ98-CPにしれっと搭載されていた。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | Start 30gf |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 3.7mm |
動作寿命 | – | 備考 | Full POM |
Akko 磁気式キースイッチ
Akko Cream Yellow
磁気式キースイッチ界の可愛い担当。Akko MOD007PCやMonsGeek M1 HEに搭載されている。
スイッチ特性 | リニア | 押下圧 | 50gf |
---|---|---|---|
作動点 | – | キーストローク | 4.0mm |
動作寿命 | – | 備考 | – |
さいごに
今回はゲーミングキーボードにおけるゲームチェンジャー的存在である「磁気式キースイッチ」について解説しました。今後もスイッチの種類は増え続けるでしょうし、磁界の変化でキー入力を検知するときの精度を高めるための工夫もなされていくでしょう。さらなる技術の進歩に期待したいところ。
磁気式キースイッチはその仕組み上、ワイヤレスマウスなど、電波を飛ばす製品と相性が悪いように感じますが使っているときにそのようなことを感じたことはありますか?